「個人再生と住宅」に関するお役立ち情報
住宅ローン特則つき個人再生で必要な書類(不動産の査定書編)
1 不動産がある場合の個人再生手続き
個人再生では、最低弁済額といって、再生計画で最低限弁済しなければならない金額があります。
これを決めるための基準はいくつかあり、そのうちの一つとして、清算価値保障原則があります。
個人再生における清算価値というのは、再生債務者が有する財産の総額のことですが、再生計画で定める返済総額はこの清算価値を下回ってはならない、というルールが清算価値保障原則です。
このルールがあると、抵当権などの担保権の設定もない自宅不動産または投資物件(一棟のアパートなど)といった高額になりやすい財産を所有する方が個人再生を行うと、確定した再生債権全額を返済しなければならないということになりかねず、そうなると通常は返済が困難です。
これが返済できだけの収入があるのであれば、個人再生ではなく任意整理で対応できることが多いですし、返済できないのであれば、個人再生ではなく自己破産を選ばざるをえないと考えられます。
そのため、不動産を所有する方が個人再生を行うケースは、住宅ローンを利用して自宅を購入したものの、他の負債も増えてしまって返済が厳しくなった場合に、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用して、住宅ローンの返済を継続しつつその他の負債を整理するというのがほとんどです。
2 清算価値保障原則と不動産
不動産を清算価値に計上するためには、その不動産の価値を金銭的に評価しなければなりませんが、そのためには、査定価格が記載されている鑑定書や査定書を準備しなければなりません。
不動産の査定価格が載っている書類のうち最も信頼性が高いのは、専門家である不動産鑑定士が作成した鑑定書になりますが、不動産鑑定士に鑑定書を依頼するためには通常数十万円の費用がかかります。
返済が困難になって個人再生を行うことにした債務者の方に不動産鑑定士の鑑定書を取得してもらうのは、現実的ではありません。
そのため、千葉地方裁判所の個人再生手続の実務では、申立人が民間の不動産業者2社の査定書を準備して提出し、その査定価格の平均値を当該不動産の時価として清算価値に計上する扱いになっています。
3 不動産業者の査定書
不動産業者の査定書は、個人再生手続の申立人が準備して提出しなければなりませんので、個人再生の申立てを行う方が、不動産業者の店舗に赴いて依頼する必要があります。
なお、査定の依頼については、インターネットからも行うことは可能ですが、査定対象の不動産についての簡単な評価と査定価格が記載されたメールが返信されてくるだけのことが多いようですので、そのようなメールだけでは、後述のとおり査定書として使うことはできません。
千葉地方裁判所の個人再生手続きでは、上述のとおり不動産業者2社の査定書を提出する必要がありますが、どのような内容の査定書でもよいというわけではありません。
例えば、A4の用紙1枚に対象物件の住所等、査定価格および査定を行った不動産業者名しか記載されていない査定書や、査定価格の記載はなく売り出し提案価格しか記載されていない査定書(査定書というよりは売出提案書です)は、受け付けてくれません。
不動産の査定は、通常、近隣の取引事例を参考に、対象不動産の特性も考慮して行われますが、このような査定結果に至るまでの過程が記載されているものが必要になります。
なお、査定書は、現地を見ない机上査定によるものでも受け付けてくれます。
なお、査定価格は査定を行う不動産業者によって小さくない違いが出ることも珍しくありませんので、査定の依頼は、大手の不動産業者3~4社程度に行っておくとよいと考えられます。
4 不動産の清算価値の算出方法
住宅資金特別条項を利用する個人再生手続きでは、住宅ローンについて担保権が設定された自宅について清算価値を算出することになりますが、その計算は、時価から住宅ローンの残額を控除するという方法により行います。
まず、不動産業者の査定は金額に幅があることも少なくないですので、例えばA社の査定価格が「1500万円~1550万円」の場合、A社の査定価格はその中間地である1525万円となります。
そして、同一不動産についてのB社の査定価格が「1550万円から1600万円」の場合、B社の査定価格は1575万円となりますので、この不動産の時価は、2社を平均した1550万円となります。
このケースで、仮に住宅ローンの残額が1200万円だった場合、この不動産の清算価値は、1550万円から1200万円を控除した350万円となりなります。
なお、住宅ローンの残額は、法理論的には再生計画認可決定時の金額で計算することになりますが、千葉地方裁判所では、認可決定時に近接した時点の残高で計算することになります。
他方、オーバーローン、すなわち住宅ローンの残額が不動産の時価以上となる場合は、当該不動産の清算価値は0円となります。
住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を検討する際の注意点 個人再生手続において再生計画に従った返済が苦しくなったとき