「個人再生の手続き」に関するお役立ち情報
清算価値保障原則の運用
1 清算価値保障原則とはどのようなものか
個人再生では、法律にしたがって減額された負債を分割弁済することとなり、返済総額は再生計画で定めることになりますが、返済総額はいくらでもよいというわけではなく、最低金額があります。
その最低金額を最低弁済額といいますが、これを定めるための基準は複数あります。
そのうちの一つが清算価値保障原則というもので、他の基準で定まる最低弁済額が再生債務者の財産の総額を下回る場合は、再生債務者の財産の総額を最低弁済額としなければならないという原則です。
これを具体例で説明しますと、小規模個人再生で、再生債権の総額が700万円の場合、再生債権の総額を基準とした最低弁済額はその5分の1の金額である140万円になりますが、再生債務者に200万円の財産がある場合、清算価値保障原則の適用により最低弁済額は200万円になります。
このケースで、最低弁済額を140万円でよいということにしてしまうと、仮にこの事案で破産手続を行っていた場合は理念的には200万円が破産債権者に配当されることになりますので、債権者は、破産手続が行われた場合よりも不利益を受けることになります。
清算価値保障原則は、その債権者の不利益を回避するために設けられたものです。
なお、この清算価値保障原則は、民事再生法174条2項「裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。」の4号「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。」から求められるものですが、その内容は、民事再生法の条文では具体的に規定されていません(なお、民事再生法236条は、「小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定した場合には、計画弁済総額が、再生計画認可の決定があった時点で再生債務者につき破産手続が行われた場合における基準債権に対する配当の総額を下回ることが明らかになったときも、裁判所は、再生債権者の申立てにより、再生計画取消しの決定をすることができる。」と規定しています)。
そのため、その原則をどのように運用するのか、すなわち運用基準については手続きを主宰する各地方裁判所が定めることになりますので(なお支部は本庁の基準に従うのが通常と思われます)、特に清算価値が問題になりそうな案件では、申立てをする予定の地方裁判所の運用を事前に把握しておくことが重要になります。
以下では、千葉地方裁判所の運用を前提にご説明します。
2 現金について
法人と異なり自然人は、破産手続を行ったあとも収入を得て生活をしなければなりませんので、破産者のもとに一定の財産が残るようにして最低限の生活が維持できるように配慮がなされており、破産者は、99万円までの現金(なお預貯金は現金ではありません)は、本来的自由財産として裁判所の許可なく自由に使うことができます。
そのため、個人再生手続でも同様に、99万円までの現金は清算価値としてカウントされません。
ただ、預貯金は引き出すことですぐに現金化できますが、後述のとおり預貯金は全額清算価値に計上されますので、清算価値が最低弁済額になる事案においては、預金を引き出して現金で保管することで清算価値を引き下げるということも検討します。
3 預金について
千葉地方裁判所の破産手続では、預貯金の合計金額が20万円以下の場合は換価を要しない財産とされ、黙示に自由財産拡張の裁判があったものとされています(自由財産拡張の申立ては不要です)。
つまり、預貯金の金額が20万円以下の場合は配当原資としてカウントされていないということになります。
他方、個人再生手続では、千葉地方裁判所では、預貯金全額について清算価値への計上を求められます。
この点、東京地裁の場合は、預貯金が20万円を超える場合に、その全額について清算価値への計上が求められ、20万円以下の場合は計上不要です。
4 退職金請求権
退職金制度のある会社等で働いている方が破産手続を行う場合、千葉地方裁判所では、原則として、破産手続開始決定時において自己都合退職したと仮定した場合に支給される退職金の8分の1の金額を破産者の財産としています。
例えば、退職金見込額が240万円の場合、破産手続ではその8分の1の金額である30万円が破産者の財産となり、20万円を超えますので、破産者の手許においておくためには自由財産拡張の決定が必要になります。
他方、個人再生手続きでは、清算価値判定の基準時は再生計画認可決定時とされていますので、再生計画案認可決定時において自己都合退職したと仮定した場合に支給される退職金の8分の1の金額を清算価値に計上します。
ここでの重要なポイントは、個人再生手続きにおいて清算価値を判定する基準時は、一般的に、再生計画認可決定時とされている点です。
例えば、再生手続きが開始した時点では勤務していたため退職金見込額の8分の1の金額を清算価値に計上していたとしても、その後転職のため退職し、再生計画認可決定時に退職金請求権が具体化していた場合は、その金額の4分の1を清算価値として計上しなければなりません。
また、再生計画認可決定前に退職金が預金口座に振り込まれていた場合は、再生計画認可決定時には預金として存在することになりますので、預金として全額清算価値に計上されることになります。